「文化センター・アリラン」とは

副館長 裵敬隆(ベイ・キョンユン)

2010年6月、「文化センター・アリラン(以下「アリラン」と略)」は西川口から新宿へと舞台を移し、新たな出発をいたしました。職安通りに面する「第2韓国広場」ビル8階に開館したのですが、ここは今まさに「韓流ブーム」で沸き立つ観光名所と化しているところです。週末ともなれば全国から訪れる観光客でごった返します。

思い起こせば1993年11月より18年有余、西川口にて朝鮮史研究、朝鮮文化交流の一翼を担ってきた「アリラン」が、奇しくも「韓流ブーム」現象のど真ん中で再出発する事になったのは、何か不思議な歴史的因縁を感じざるを得ません。「韓流ブーム」は、コマーシャリズムの所作によって日々更新される消費欲望の刷り込み現象と、衰退局面に入った21世紀日本社会を漂う時代の復古的厭世気分(デカダンス)とが混淆して大衆の生活文化に浸みだした、いわば社会の無意識的表層といえます。「無意識は言語として構造化されている」というラカンの言葉を牽強付会して、「韓流ブーム」を以下のように読み替える事は不可能でしょうか―戦後日本社会が、その再出発において、自らの歴史的視座を解体・再構築する契機を見事に打擲した結果として、無邪気なほどに無自覚に放出される自責と代償作用の変異種であると―。

「在特会」と「石原都政」の中の「韓流ブーム」。「植民地近代化論」と「司馬遼太郎」史観の中の「韓流ブーム」。時代の空気や大衆の熱狂がいかに脆いものであるか、過去の歴史はその教訓で満ちあふれています。その意味で私たちは「韓流ブーム」の背景に潜む「構造化されたまやかしの言語」を撃ちぬく必要があります。大仰な言い方が許されるなら、まさに「アリラン」の役割に最も相応しい時と処を得たといえそうです。

アリランのイベント企画

さて、開館以降、「在日」と日本人の交流をより一層身近なものにするため、主に文化・芸能を中心とした様々な企画を実施してきました。「在日アーテイストと出会おう」と題したシリーズ企画(8回)では、クラシックの演奏家、シンガーソングライター、朝鮮古典舞踊家、伝統楽器奏者、声楽家など、様々な分野で活躍する多彩な「在日」のアーテイストが、生の声でそれぞれの思いを通じて訴えかけるミニシアター形式で構成しました。いずれの催しも立ち見席が出るほどの大盛況となり、改めて「在日」アーテイストの実力を再評価する場となりました。来場者も出演者の熱心な個人的ファンにとどまらず、「アリラン」の広報案内で知り参加申込をした方々も多く見られました。「在日」の歴史と生活にかんする理解を広げるうえで、私たちの予想を上回る成果を上げました。現在、新たな企画を準備中です。ご期待下さい。

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アリランの研究機能

1993年11月、西川口の地で創設されて以来20年近い歳月、故・朴載日理事長、そして姜徳相館長を中心に、朝鮮近現代史研究にたいする真摯で誠実な姿勢を崩さず、着実な努力を持続してきた「アリラン」。そこでは「在日」および日本の研究者、さらに韓国を初めとする各国からの訪問研究者が切磋琢磨し、東アジア・朝鮮史研究の地平をリードする「知のネットワーク」の重要な一環を形成してきました。特に「差別と暴力を考える」研究会は、発足以来、姜徳相館長を先頭に若手・中堅研究者が集う場として「アリラン」を拠点に活動、朝鮮近代史研究の最も真摯な担い手を育てる重要な機能を発揮しています。

2011年度から、「近代日本と朝鮮の歴史認識を問う」と題する連続歴史講座を開催しますが、発表者の多くは研究会の会員です。2010年には「韓国併合100年」という重要な節目を迎えましたが、日本と朝鮮の間に存在する歴史認識を巡る深い溝と落差を埋める努力が充分になされたとはいえないのが現実です。それどころか、「歴史相対主義」を標榜する立場から史料・文献の恣意的な解釈を拡大・一般化し、日本の植民主義と国家暴力・犯罪にたいする実証的な検討を退けようとする目論見はますます強化されつつあるといってもよいでしょう。ある意味で意図的なもみ消し作業が日本社会全体を覆い尽くしているといった方が正しいかもしれません。この目前の現実にたいし、歴史学専攻の研究者としていささかなりと警鐘を鳴らさねば、という願いから、7回にわたる連続歴史講座を開催する事となりました。

「アリラン」は、私たちが守り継ぐべき日本社会と在日を結ぶ「公共財」であり、韓国・日本の民主主義を検証する砦でありたいと、願っています。

アリランの図書

「アリラン」では、創立以来、収集、寄贈されてきた数々の貴重な文献・文庫が約4万点以上も所蔵されており、これまで研究者たちの道標として活用されてきました。梶村秀樹の運動資史料、田川孝三文庫、姜在彦文庫を始めとする研究者からの寄贈文庫、韓国国史編纂委員会寄贈図書、その他多数の貴重な所蔵図書、そして現在、韓国・朝鮮問題関連の新刊図書の充実にも力をいれています。これら所蔵図書・文献の1冊1冊に「アリラン」に集い、そこで交感した韓日の研究者の「良心の木霊(こだま)」が宿っています。残念ながら、スペースの関係で所蔵するすべての図書を公開する事ができないため、現在はその限られた一部のみを閲覧可能としています。

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アリランのネットワーク機能

現在、「アリラン」では、スタッフ常駐の「コリアNGOセンター」を始め「民族日報連帯フォーラム」「在日コリア文化学術教育財団」その他の「在日」関連団体などが、定期的会合を開催する場として利用しています。交通至便な新宿は、例会、イベント、ミニ集会など、定期不定期の様々な会合場所として絶好のロケーションであり、「アリラン」をハブとする「在日」ネットワークが拡大・充実するよう、スタッフ一同できる限りの協力をしたいと思います。これからも「アリラン」の輪を広げ、より多くの「在日」団体、個人が気軽に利用できる環境整備を推進して行きたいと思います。詳細は、直接スタッフにお問い合わせ下さい。